レビュー

こだわりと裏返しのもの
 AVGの老舗ハミングバードの意欲作。
 ハミングバードはこの作品をライブアドベンチャーゲームと銘打った。AVGの中に「生活」を表現しようとしたのだ。
 そのために「時間」の概念をひとつの柱に据えた。
 時間の経過を表現するゲームは既にいくつか存在した。コマンド入力ごとに経過するもの、リアルタイムで経過するもの、フラグを立てると時間が経過するもの、様々である。しかしその多くが、タイムリミットを設けたり、時間経過でイベントが発生したり、と演出として「時間の流れ」を借りているに過ぎない。

 しかしこのゲームは違う。時間そのものをゲームにしてしまったのだ。

 登場人物たちは、朝になれば起きて食事をし、職場へ向かったり学校へ行ったり等各々の行動をとり、暇な時間には自室で休憩し、たまにはこっそり二人で密談し、夜になれば風呂に入り、就寝する。目的を持つ者は目的のために行動し、そうでなければ日常の日々を過ごす。プレイヤーはその世界の一員となり、時間の流れと共に生活しなければならない。
 ゲームを包む世界が、文字通り「時間」と共にあるのだ。

 1週間というタイムリミットはあるが、存在意義は薄い。ゲーム世界を破綻させないように、適度な長さで区切りをつけたのだろう。1週間のあいだに必要な情報を集め、赤いエメラルド「アグニの石」を探し出さなければならない。
 時間は、文字どおり刻一刻と過ぎていく。体力と集中力のパラメータは休憩しなければ回復せず、生活が乱れればそれらのパラメータが低下して、行動に支障をきたす。所持金がなくなってしまえばやはり行動に支障が出る。それらのパラメータを把握し、計算して行動しなければならない。計算して行動したつもりが、登場人物の行動が変わっていたりもする。

 普通のコマンド選択式AVGとは明らかに一線を画している。その実態は、AVGよりもシミュレーションゲームに近い。システム自体は複雑ではないのだが、扱わなければならない情報量が多く、初心者が気軽に遊べるゲームではなくなってしまった。

 ハミングバードが最初から玄人向けAVGを作るつもりだったとは考えにくい。時間経過のシステムを導入して生活感を出そうとしたら、それらの情報を把握するだけの能力と努力が必要になってしまったのだろう。
 ゲームにリアリズムを求めるかどうかという命題は、今のゲーム界でも続いている。


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